組織文化はどのように形成され、どのように浸透していくのか。スタートアップやベンチャーにおける組織文化のつくりかた。
2019年05月02日

スタートアップやベンチャーに限らず、大きな組織であっても、組織の強さに大きな影響を与えるのが組織文化です。

特にリソースを持たないスタートアップやベンチャーにとって、カルチャーが重要であることは多くの方が認識する通りとなっています。

私自身の経験として、過去に所属する組織がうまくパフォーマンスを発揮せず、崩壊し、文化の変革を迫られたことがあります。その時に、組織文化を変革することは本当に難しいし、苦痛を伴うということを痛感しました。

私は組織文化を変革していく陣頭指揮をとる立場でしたが、そうした立場だけでなく、変革を迫られる側にも相当の大変さ、辛さがあったのだろうなと想像できます。

そうした経験から、変革する必要のない組織文化を最初から作っていくことができればあの苦痛は避けられるのではないかというところに行き着き、組織文化は何を基にどうやって形成されていくのか、変革の必要がない良い組織文化を作っていくためにはどうすればいいのかということを追求したいと思いました。

「組織文化は重要」「良い文化を作っていかなければならない」「文化が組織力を決定づける」とは言われても、「組織文化」とは一体何か、そしてどのように形成されていくのかということについてはあまり触れられていないように思います。たしかに、いまいち(というか全くもって)捉え所のない概念だなあと思います。しかしそれだけに深掘りする甲斐はありそうです。

そこで本ナレッジでは

・そもそも組織文化とはなにか ・どうやって文化は形成され浸透していくのか ・意図した組織文化を作っていくためには

ということについて考察することで、組織文化を少しでも理解し、スタートアップやベンチャーが「良い組織文化」を作っていく方法を解明する準備をしていきたい思います。

そもそも組織文化とはなにか

そもそも組織文化とは何なのでしょうか。これに関するヒントは、MITにて組織開発や組織文化を研究し、この道の権威であるエドガー・シャインの著書「企業文化」にありました。

シャインは、組織文化には3つのレベルがあるとしています。

①文物(人工物) 目に見える組織構造及び手順

明確で、直接理解できるものを指します。例えば会社の方針やビジョンなどが記載されているパンフレットやポスター、オフィスそのもの、組織メンバーの服装など、実際に目に見えるもの、形を成しているものが当てはまるようです。

②標榜されている価値観 戦略、目標、哲学(標榜されている根拠)

会社の価値観、方針、倫理観、ビジョンなどがこれに当てはまります。

3.背後に潜む基本的仮定(共有された暗黙の仮定) 無意識に当たり前とされている信念、認識、思考及び感情(価値観および行動の源泉)を指します。

組織を立ち上げたリーダーの価値観や信念、物事への判断基準などがこれに当てはまります。

そして、シャインはこの3つ目のレベルである、背後に潜む基本的仮定こそが文化の本質であると述べています。

文化とは共有された暗黙の仮定パターンである。暗黙の仮定とは、外部に適応したり、内部を調整したりといった問題を解決する際に組織が学習した方法である。 それらは組織によって承認され、新しいメンバーが組織に加わった際には、問題に気づき、考え、感じるための正しい方法として彼らに伝えられる。

日々の行動を真に支配しているのは、学習され共有された暗黙の仮定である。人々はその仮定を基に、現実をこうである、またはこうあるべきと考える。

文化は、成功に至るまでの考え方、感じ方、世の中に対する認識など、グループが学び、蓄積したものを象徴するものである。

文化は目に見えない。組織のメンバーは、自分たちの文化が何であるかを簡単には説明できない。メンバーの行動を観察したり、標榜される価値観を尋ねたりするだけでは、文化を測定・評価することはできない。

つまり、

組織文化とは、「組織内で暗黙のうちに共有されている前提」である

ということです。

組織文化やカルチャーというと、福利厚生、組織制度などの目に見えるものや、明文化された行動指針、バリュー、会社の雰囲気などをイメージしがちですが、それらは組織文化の一部が表面化したものにすぎず、それらの根底となっている"共有された組織の前提(仮定)"こそが組織文化であるということですね。

そしてその「前提」とは、「組織が成功するために必要な前提」ということになります。 「こう判断すればうまくいく」「こう考えていたからこれまで成功してきた」など、大小かかわらず成功を重ねることで、組織が蓄積してきた学び、物事の見方、考え方の基準であると言い換えることが出来ます。

この定義に関しては、自身の感覚と照らし合わせても非常にしっくりきました。

バリュー(価値観)は"組織文化"に近そうですが、あくまでもたくさんある"暗黙のうちに共有されている前提"のうち、組織として特に大切にしたいなどの理由で抜粋して明文化している価値観の一部なので、"組織文化"のほうがより上位の(根底の)概念になると考えます。

また、"組織文化"を1つの独立した要素として捉えるより、ミション・ビジョンや戦略、組織構造など全てに影響を与える、根底となるものであると捉えるほうが自然かなと思います。

どうやって組織文化は形成され、浸透していくのか

では、この「暗黙のうちに共有される前提」は組織においてどのように形成され、どのように組織に浸透していくのでしょうか。

シャインは、組織文化形成及び強化(浸透)のメカニズムを以下のように述べています。

一次的なメカニズム ・リーダーは常に何に注意を払い、優劣を評価し、管理しているか ・リーダーは重大な事態や組織存亡の危機にどのように対処するか ・リーダーが限りある資源を割り当てる際の基準 ・意図された役割モデル、指導、コーチ ・リーダーが報酬、地位を与える際の基準 ・リーダーが組織のメンバーを募集、採用、昇進、退職、解雇する際の基準   二次的な明文化、および強化のメカニズム ・組織の設計、構造 ・組織内の習慣、しきたり ・物理的な空間、外観、建物の設計 ・人々や出来事に関する話題、伝説、逸話 ・組織の哲学、価値観、信条に関する公式声明

これを簡単にまとめると、組織文化は

①まず、リーダーの判断や対応、評価の仕方によって形成される

②それらが明文化され、目に見えるものになることにより浸透していく

と言うことが出来ます。

組織のメンバーが、リーダーの一挙手一投足を見て、そのリーダーが何を正しいと考えているのか、どんな状況の時にどう対応するのがこの組織にとって正しいことなのかなどを、暗黙のうちに判断し、それが組織メンバー内に共有されていくことで組織文化となっていく。

ここでいうリーダーというのは、創業間もないスタートアップであれば創業者(トップ)を指し、規模が大きくなるに連れて役員やコアメンバー(管理職)もその役割の一部を担っていくと考えられます。 そしてその中で形成された組織文化=暗黙のうちに共有される前提は、組織の習慣となり、組織体制やオフィス、逸話やバリューなどへと解像度を高めた形で目に見える形に変化し、より浸透していきます。

シャインは直接は触れていませんが、組織文化の定義を考えると、三次的なメカニズムとして、組織が成功体験を持つことによってさらに強化(浸透)されていくのではないかと考えます。

よって、

①まず、リーダーの判断や対応、評価の仕方によって形成される

②それらが明文化され、目に見えるものになることにより浸透していく

③組織が成功体験を重ねることで、より浸透していく

というのが私の組織文化形成及び浸透に関する見解です。1〜3を繰り返していくイメージでしょうか。

現実を見ても、成功している(少なくとも外から見るとうまくいっているように見える)企業のほうが、組織文化が浸透しているように見えますよね。それは、成功体験を重ねることで、メンバーが「この価値観、考え方で正しいんだ」と自信を持つことができ、それによってより確信を深めていくがゆえではないでしょうか。

ここで重要なことに気づきました。

それは、

ミッションやビジョン、バリュー作りは、組織文化を強化・浸透させるものであって、文化を作るということそのものではない

ということです。

いくら理想的なミッションやビジョン、バリューを作っても、元々の組織文化にその要素がなければ浸透しません。 ミッションやバリューを作ってみたは良いものの全く浸透しない、形骸化してしまっているという事例がよくあるのは、ここを勘違いし、明文化することが文化作りであると認識しているが故ではないでしょうか。

明文化することで、既にそこにあるものを強化することはできても、組織文化を作る事はできないということです。順番が逆なのです。 もちろん、明文化することで自分たちの組織文化の中から強調したいものを伸ばすことは可能だと思います。

今までの私は、ミッションやビジョン、バリューを明文化することで、理想の文化を作っていくことができると考えていました。 その組織文化を浸透させるためには、掲げているバリューと、リーダー陣の言動が一致していることが必須だとは思っていましたが、リーダーの判断や対応、評価の仕方によって組織文化が形成されるのであれば、そもそもリーダー陣が持っていない要素は、その組織の文化たりえないのだということに気づきました。

組織のリーダーたち、もっと言えば創業者トップの一挙手一投足が組織文化になっていき、組織文化が企業の競争力を決める大きな要因になるという前提に立てば、会社はトップの器を越えないと言われることと矛盾せず、納得感があります。

意図した組織文化をつくっていくためには

ここまで見てきことから、特にスタートアップやベンチャーにおいて、どのように組織文化を作っていけるのかという部分に言及したいと思います。

改めて整理すると、組織文化は以下の流れで形成され、浸透していきます

組織文化形成・浸透のメカニズム ①まず、リーダーの判断や対応、評価の仕方によって形成される ②それらが明文化され、目に見えるものになることにより浸透していく ③組織が成功体験を重ねることで、より浸透していく

よってここから、意図した組織文化を作るために必要なことは以下であるといえます。

0.理想とする組織文化を(ある程度)明確にする

まずは「意図する組織文化」を明確にする必要があります。ここでは、きれいにワーディングまで行って明文化するというよりは、大事にしたいものを明確にする、あるいは創業者間で確認するといったような大枠のもので良いのかなと思います。

また、「理想とする」と書きましたが、そもそもリーダー陣が持っていない要素は、その組織の文化たりえないので、リーダー(創業者や経営陣)が全くもっていない要素を理想として入れ込まないほうが良いと考えています。

もし自分たちが持っていない要素を入れるのであれば、自分たちの思考言動一つ一つが組織文化を形成することを強く自覚して、自分たちを矯正していく必要があります。 ただ、ある程度の矯正はあって然るべきかと思いますが、あまりにも理想と自分たちがかけ離れていると無理して演じ続けるということにもなりかねないですし、もっと言えば自分が守れないものを「組織の前提」としてしまうと組織メンバーがシラケてしまうのでおすすめはしません。(当然、浸透もしない)

自分たちが持つ強み要素をできるだけ客観的に把握し、強みを伸ばしていくという方針で目指す組織文化を定義するのが良いのではないかと思います。

1.組織のリーダーが、意図する組織文化となるような判断基準を持って仕事をする

続いては、前項で明確化した組織文化、またそれに紐づく判断基準、前提に基づいて一つ一つ発言、行動、判断していくことです。

ここでとても重要なのは、組織メンバーは自分(たち)の一挙手一投足をよく見ており、その一つ一つによって組織文化が形成されていくということをリーダーが自覚することです。

組織メンバーは、リーダーの発言、行動、判断を見て、この組織で求められる「前提」を意識・無意識関わらず認識していきます。そのため、リーダー(たち)はその重みを理解する必要があるでしょう。

2.意図する組織文化が何であるかがメンバーと共有できるように可視化する

ここは、方法論とセットでよく語られ、情報も多く見られる領域です。

例えば、「ミッションやビジョン、バリューを定義、明文化する」や「それをクレドカードにして配る」「ポスターを作ってトイレなどに貼る」「スローガンをWi-Fiのパスワードにする」「全体会で何度も発信して接触機会を増やす」など、組織文化を様々な形で可視化して共有していく必要があります。 オフィスをカジュアルでオープンな内装にしたり、組織体制を柔軟にする、ホラクラシー組織にするなどもここの項目に入るかなと思います。

3.組織が成功する、成功体験を積み重ねる

そして、組織が成功を重ねていくこと。特に、既存の文化を変えたいと言う時は、成功がセットにならないとなかなか変化しないように思います。

成功することにより、現在の文化の"正しさ"に対してメンバーが確信を持てるので、浸透しやすさが格段に上がります。逆に言うと、過去の成功体験が強いほど、なかなか組織文化が変化しないということも言えます。

これらが、組織文化を作っていく際に考えるべきフレームかなと思っています。

スタートアップやベンチャーでは、組織文化のコアを形成するリーダー陣と組織の各メンバーとの距離が近いため、大企業よりは組織文化を意図した方向に向けやすいはずです。

組織文化は非常に深く、かつ現場においても重要度が高いテーマだと思います。「スタートアップやベンチャーにとって良い組織文化とはなにか」「なぜ既存の文化は変わりにくいのか、文化を変えるためにはどうすればよいのか」など、組織文化に関して書きたいナレッジはまだまだたくさんあるので、これらは今後書いていきたいと思います。

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